行雲流水 〜お気に召すまま〜

好きなことを好きなように好きなときに書くブログです。

中国と私~文学編~

今回は、私がこれまでに読んできた本の中から中国を舞台にした文学作品について少しご紹介しようと思います。

 

パール・バック『大地(1)~(4)』(新潮社)

王龍(ワンロン)から始まる一族の、三代にわたる物語です。貧しい農民にすぎなかった王龍が、大地主の奴隷だった阿蘭(アーラン)を娶ったことによって運が向き始め、莫大な富を手に入れるまでが第一部。
第二部では、三人の息子たちがそれぞれどのように成長したかが描かれてます。地主となった長男、商人になった次男。三男は父が望んでいた百姓ではなく、軍人として力をつけるようになり、後に王虎(ワンフー)と名乗るようになります。
第三部では、王虎の息子である王淵(ワンユアン)を主人公に据え、物語が進んでいきます。息子を軍人にしたかった王虎の思いに反して王淵は土地への強い憧れを抱き、父の元を去ってアメリカに留学します。そこで彼は新しい生き方に触れつつも、土地への愛着を捨てきれないまま帰国します。

 

それぞれの登場人物が生きる時代背景はどんどん変わっていきますが、家族間、親子間の問題は変わることなく後々まで尾を引いていきます。
物語の中で大きく変わってくるのが、女性たちの生き方です。王龍の時代では封建的な考え方が強かったのに対し、王淵の時代では西洋的な考え(親同士が決めた人と結婚するのではなく、好きな人と自由に恋愛結婚をする)をもった女性たちが増えてきています。
淡々と物語が進むため、あまり感動したりする要素はありませんが、人間は大地から離れて生きることはできないということを考えさせられる一冊です。

 

ユン・チアン『ワイルド・スワン(上)(中)(下)』(講談社

著者の祖母、母、そして著者自身の中国国内での実体験に基づく作品です。神格化された毛沢東の狂気など、余すところなく描かれています。

 

一口に言って、とても凄惨な内容で、生々しい描写も多いです。大躍進政策文化大革命など、中国が経験した激動の時代をここまで克明に描いているのもなかなか珍しいかなと個人的には思いますが、中国の近現代史を理解する上では絶対に欠かすことのできない一冊です。
神格化された人間はここまで恐ろしくなれるものなのか――。中華人民共和国という国が多くの血と犠牲の上に建国された事実を、決して忘れてはなりません。

 

浅田次郎蒼穹の昴(1)~(4)』(講談社

清朝末期を舞台にした歴史小説です。貧しい家を支えるために自ら去勢(浄身)して宦官となり、西太后に仕えた少年・春児(チュンル)と、義兄弟の梁文秀(リァン ウェンシュウ)の物語です。清朝内部での政治争いに翻弄されていく二人を、壮大なスケールで描いています。西太后李鴻章、光緒帝、袁世凱など、実在の人物も数多く登場するので、歴史が好きな人にはオススメです。

 

西太后は日本では悪女として有名ですが、この物語の中ではそうではなくて、ものすごく国民に慕われています。自分の身内を守るために見せる繊細さなど、日本で持たれているイメージからすると意外な一面が描かれています。
内容の面白さとしては「さすが浅田次郎!」というべきで、4冊ともあっという間に読み切ってしまいました。難点としては、一人の登場人物に対して様々な呼称があったりして、なかなか覚えられないことでしょうか。

 

山崎豊子大地の子(1)~(4)』(文藝春秋

中国残留孤児がテーマの小説です。上川隆也さんがドラマで主演されていたことでも有名。
主人公は陸一心(ルー・イーシン)=松本勝男。日本人であるがゆえに差別を受けながらも、日中共同プロジェクトを成功させるまでの様々な人間模様をドラマチックに描いています。

 

まさに「ヒューマンドラマ」という言葉がふさわしい作品だと思います。中国残留孤児という重いテーマを扱っているのと、作中でも次から次へと試練が襲ってくるので読んでいる途中でしんどくなることも多々ありましたが、なんとか読み切りました。
二人の父をもつ陸一心が物語の最後で口にする言葉は、涙なしには読めません。