行雲流水 〜お気に召すまま〜

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読書感想:『旅するヤギはバラードを歌う』

ジャン=クロード・ムルルヴァの『旅するヤギはバラードを歌う』(早川書房)を読み終わりました。

 

作者について

1952年、フランスのオーヴェルニュに生まれる。ストラスブールトゥールーズ、パリ、ボンなどで学び、数年間ドイツ語教師を務めた後、演劇の世界に入る。自ら書き下ろし、演じた一人芝居は、フランスで1000回以上、さらに世界各地でも上演され、大好評を博した。1998年に初の小説を発表して以来、作家としても高い評価を受けている。

引用元:ジャン=クロード・ムルルヴァ『旅するヤギはバラードを歌う』(早川書房)より

 

概要

コヌルビックはバンジョー弾きのヤギ。失恋の痛手から放浪の旅に出たら、次から次へと奇妙な出来事に巻き込まれます。突然ヤマネの子を預かることになって天敵のムナジロテンに追われる羽目になったり、健忘症のニワトリと行動をともにするようになったり・・・どこか抜けてるけど憎めない、お人好し(おヤギ好し?)なヤギの珍道中を描いた作品です。

 

内容紹介

物語は、ヤギの国から始まります。ヤギたちはどんなことが好きなのか、ヤギたちの名前の法則などが説明された後、ちょっと気になるヤギのことに触れられます。

 

彼の名は、コヌルビック。ミュージシャンで、スローな曲からアップテンポな曲まで、レパートリーは150曲以上もあるそうです。中でも一番得意なのは、バラード。
相棒であり親友のビック=アン=ボルヌと一緒に、パーティーの最後にバラードを歌うのがお決まりになっていました。

 

コヌルビックには、コヌルビケットという名の意中の娘がいました。
ある日、コヌルビケットから「お話ししたいことがあるの」と呼び出されたコヌルビックは、ついに告白か!?とあれこれと想像を巡らし、二人が結婚した後のことまで考えながら、約束の場所に向かいました。

 

しかし実際には、コヌルビケットはビック=アン=ボルヌに恋をしており、コヌルビックにひと肌ぬいでもらいたいという話だったのです。
「もちろんだとも!」と思わず約束してしまったコヌルビック。

 

冬の初め、ビック=アン=ボルヌとコヌルビケットは婚約し、春には結婚しました。

 

パーティーが終わり家に戻ってから、コヌルビックはおんおん泣きました。
目から、鼻から、とめどなく流れ出る涙・・・コヌルビックは心を決めました。失恋の痛手を周囲にからかわれるくらいなら、旅に出よう!

 

こうして、コヌルビックは放浪の旅に出たのでした。

 

旅立ってからのある日、奇妙な鳥を見ました。コウノトリかと思われるその鳥は、突風にあおられながら激しく揺れ動いていました。長いくちばしの先には、小さな包み。

 

コウノトリがコヌルビックの頭上を通りかかったとき、なんと包みがすべり落ち、コヌルビックの腕の中におさまりました。
包みは台所のふきんでくるまれ、固く結ばれていました。結び目をほどくと、四つに折りたたまれた紙が現れます。

 

直感的に、読んではいけないと思いつつも、やはり興味には勝てず、少しだけ読んでみることにしました。

 

そこには、包みの中にいるのはピエという名のヤマネの最後の赤ん坊で、ムナジロテンに捕まる前に安全な場所に運び、めんどうを見てほしい、といったようなことが書かれていました。

 

コヌルビックは戸惑いましたが、後のことを引き受ける決意をし、コウノトリに合図をしました。

 

ピエを引き取ったことで、コヌルビックはムナジロテンに追われることになります。
早速、フレッシュ、パールというムナジロテンに遭遇し、包みを見せるように言われました。
しかしコヌルビックは頑なに拒否し、見せようとしません。執拗な彼女らから間一髪のところで逃れました。

 

・・・一向に動く気配のないヤマネの子でしたが、その時がやってきました。
ヤマネの子・ピエは、ある日ついに目を覚まします。そしてコヌルビックとピエはなんだかんだでウマが合って親しくなり、あっという間に3年が経ちました。

 

ある日、ブドウ畑の中を歩いていたコヌルビックとピエは、その村でマラソン大会が行われることを知ります。優勝者には金貨が一キロ分贈られると知り、コヌルビックは参加を決意しました。

 

ラソン大会当日、様々な妨害を乗り越え、コヌルビックは結果的に一人で走っていました。金貨一キロがもうすぐ自分のものになる・・・もうすぐそこだ・・・。

 

ところが、最後の一周のために表彰台の前を走りすぎたとき、目に入ってしまったのです。金貨の袋の近くに立つ、ムナジロテンたちの姿が。

 

コヌルビックは走りながら、枝の陰に隠れていたピエを大声で呼び、大急ぎで逃げました。
金貨がもうすぐ手に入るのになぜ・・・ピエはわけがわからないまま、コヌルビックのポケットにもぐりこみ、二人の姿はそのまま見えなくなりました。

 

それから一週間、ずっとコヌルビックは腹を立てていました。その中で立ち寄ったトウモロコシ畑の村では、悪口コンテストが開かれていました。
初めは出る気のなかったコヌルビックですが、ピエの挑発もあり引き下がるわけにもいかなくなって、出場します。

 

ここでコヌルビックは優勝し、その夜はホテルでの大宴会となりました。
ずっと険悪だったピエとも仲直りしました。もっとも、コヌルビックはピエに対して腹を立てていたわけではないのですが。

 

秋が深まってきました。これはコヌルビックにとっては辛いことでした。ピエが冬眠に入るため、その期間はひとりぼっちになってしまうからです。

 

ある日、仲良くけんかをしながら歩いていると、霧があたりに立ちこめてきました。これ以上どうしようもないと判断したコヌルビックはそこに座り込み、休むことにしました。
濃い霧の中で、ピエは用を足したい旨を告げ、コヌルビックの肩から降りました。

 

コヌルビックはその間、ヤギの国のことを考えていました。考えていたのはコヌルビケットのことではなく、別の女の子のことでした。いつも自分にやさしく笑いかけてくれて、歌と歌の合間に飲み物を持ってきてくれる女の子――。
女の子は、ブランシュビクーヌという名でした。その時、コヌルビックは突然気付いたのです。ブランシュビクーヌが何年も自分を想ってくれていたことを。

 

・・・自分の鈍感さに呆れ、ヤマネと一緒に放浪の旅を続けているコヌルビックは泣きたくなりました。

 

その時、ピエが戻ってきていないことに気付きました。現実に引き戻されたコヌルビックは、一晩中そして翌日もピエを探し回りました。
会う人ごとに尋ねても、返ってくるのは「見かけなかった」という返事ばかり。コヌルビックはだんだん自分が情けなくなってきました。

 

なんで、引き受けてしまったんだろう。自分には無理だと、始めから断るべきだったのだ。あの時、あのコウノトリに・・・。

 

その冬はいつもよりずっと厳しく、どうしても気分も塞ぎ込んでしまう・・・コヌルビックはついに故郷に帰る決意をしました。
コヌルビックはある日農家でパンを恵んでもらいました。見るもおぞましい姿になりかけていたコヌルビックは、誇りを失った自分に嫌気がさしていました。

 

そんな悲惨な状態のときに、レムという自称「ドクター」のニワトリに出会いました。彼は健忘症な上に、実のところインチキ医者でした。
しかし、いつしかコヌルビックとレムはその後も一緒に行動するようになります。

 

ある日の夜、コヌルビックは横になりながらピエのことをレムに打ち明けました。どうせいつものように、すぐ忘れてるんだろうと思っていたコヌルビックは、しかし大変驚くことになります。
眠りに落ちかけた頃、レムが言ったのです。「・・・・・・さがしに行かないとな・・・・・・」と。

 

翌日、コヌルビックは奮い立ちました。レムも昨日の話をきちんと覚えていて、二人でピエ救出のための計画を練り始めました。

 

やがて、ムナジロテンの国にたどり着いた二人。まずは腹ごしらえ、とホテルのレストランで食事を始めた二人は、隣のテーブルでのムナジロテンの会話にこっそり聞き耳を立てました。最近連れてこられたヤマネがいること、もう一匹女の子のヤマネがいること。そして、”ばば様”というムナジロテンのボスがいること。

 

二人は眠れぬ夜を過ごしました。ピエ救出のため、レムはある計画を立てます。
その計画とはコヌルビックも驚くようなヒヤヒヤするものでしたが、作戦はなんとかうまく行き、レムは衛兵から一人で”ばば様”のいる宮殿に案内してもらえることになったのでした。

 

・・・何時間待っても、レムは戻ってきません。コヌルビックが行ったり来たりを繰り返すうち、ようやくレムの姿が現われました。

 

「たぶん、しくじった」と告げるレム。すぐさま安全な場所に移動し、事の顛末を話し始めました。
しかしレムは、話の途中でうなだれてしまいました。計画の途中で、なぜ自分がここにいるのか、何をしなければならないのかが突然わからなくなってしまったのでした。

 

「とんでもないことをしでかしたようだ」と言うレム。その内容とは――。

 

”ばば様”の部屋を出ようと往診カバンを手にした時、突然「なにか」をカバンの中に隠さなければならないことを思い出したのでした。いや、「なにか」ではなく「だれか」を。そしてその「だれか」は、その部屋にいた人物・・・。

 

レムが連れてきたのはなんと、酔い潰れて眠りこけている”ばば様”だったのです。

 

慌てたのはコヌルビックでした。しかしレムは冷静でした。今度こそピエを連れ戻そうと衛兵たちの前でとんでもない行動に出ました。
結果的に二人は宮殿の中に案内され、”ばば様”を部屋に戻すと、二匹のヤマネを探し始めました。

 

そのとき、”ばば様”が目を覚ましてしまいます。どんどん険悪な表情になっていく”ばば様”。彼女は衛兵に、侍医を全員呼びつけるようにと命令しました。
集まった侍医たちに対し、”ばば様”はものすごい勢いで罵り始めました。

 

自分は何百年も眠ることができなかった。それに対してきちんとした処置をしてくれたのはレムだけだった、と言うのです。

 

侍医は全員クビになり、恐怖にかられた医師たちは命からがら逃げ出しました。

 

その後、”ばば様”は再び眠りを欲し、レムはびんを差し出しました。”ばば様”が眠りに落ちた後、すぐさま二匹のヤマネの捜索を再開し、コヌルビックはついにピエを見つけ出します。
しかしもう一匹の女の子ヤマネはどうしても見つからず、いったん逃げたほうが良いと判断しました。

 

コヌルビックが先に壁づたいに下に降り、レムがピエの入っている包みを投げ落とし、コヌルビックがそれを受け取りました。
次はレムの番・・・しかし、レムはなかなか降りてきません。何をしているのかと思っていると、突然上からレムの声がし、二番目の包みが降ってきました。包みを開けると、見るもかわいい女の子ヤマネが眠っていたのです。

 

こうして、二匹のヤマネは無事に救出されたのでした。

 

・・・ムナジロテンのアストリッドは、雪の中を歩いてくる二つの影を見とがめました。怪しいと思ったアストリッドは声をかけますが、問答しているうちにヤギに突進され、ひっくり返ってしまいます。そのヤギとは、コヌルビックでした。

 

ムナジロテンたちが追ってくるのは時間の問題でした。二人は必死で逃げましたが、やがてレムが歩けなくなります。
ムナジロテンは、すぐそこまで迫ってきている・・・追っ手の数は、300匹を超えていました。死を覚悟したコヌルビックは、土中に穴を掘って二匹のヤマネをその中に隠し、小枝や土で穴を塞ぎました。
そして表面をならすとその上に座り、袋からバンジョーを取り出して歌い始めました。

 

そよ風に頬がなでられるのを感じ、コヌルビックは歌いながら涙を流します。

 

やがて歌が終わり、バンジョーの音も止みました。
ムナジロテンたちは今にも、襲いかかってくるだろう。ウサギのように、ズタズタに引き裂かれるのだ・・・。

 

その時、地ひびきがしました。バッファローの群れなどいたっけか?と不思議に思っていると、その姿がだんだん近づいてきました。
それはバッファローではなく、ヤギたちの群れでした。コヌルビックを押し潰さないように二手に分かれ、ムナジロテンの群れに突入していきました。ムナジロテンたちは蹴散らされ、絶叫しながら逃げていきました。

 

・・・村に帰ってきたコヌルビックは、ブランシュビクーヌとの再会を果たします。ブランシュビクーヌは、健気にもずっと独身を貫き、コヌルビックの帰りを待ち続けていたのでした。
二匹のヤマネは、コヌルビック家の二階にあるタンスの奥で眠り続けていました。

 

やがて春になり、コヌルビックとブランシュビクーヌは結婚しました。
村での静養ですっかり健康を取り戻したレムは、また旅に出ると言います。コヌルビックとレムはしっかりと抱き合い、レムの姿を見えなくなるまで見送りました。
村の目抜き通りを歩いていると、ブランシュビクーヌが走ってきました。二匹のヤマネたちが動いているとのことです。

 

「本当かい?急がなきゃ・・・・・・。目覚めの瞬間に立ち会いたい!」

 

春が来た喜びを胸に、この物語は幕を閉じます。

 

感想

ヤギをはじめとした動物たちが主役の、ユーモアあふれる物語です。
主人公のコヌルビックは、ちょっと間が抜けていてお人好しなヤギ。でもいざという時は男気を見せる、憎めないキャラです。

 

旅の道中で出会った仲間たちと奇妙な出来事に巻き込まれていくわけですが、これが本当に「珍道中」です。
基本的には笑える要素が多い物語かなという印象ですが、たまに泣かせてくれます。
特にクライマックス近くでの、死を覚悟したコヌルビックの弾き語りシーンは胸が詰まってしまいました。

 

本のところどころに挟まれているイラストもとても良い味だしてます。ちょっとクスッとしてしまうような、ユニークなイラストです。

 

また、この本ではコヌルビックが歌う歌詞がよく登場しています。
すべて、”放浪のフォークシンガー”と呼ばれた「ウッディ・ガスリー」という方の曲の楽曲だそうです。(「訳者あとがき」より)
ちょっと気になったので、you tubeで探してみました。


Woody Guthrie- This Land Is Your Land - YouTube

 

どことなく哀愁が漂うメロディーで、放浪しながら歌うのにぴったりなイメージだなと思いました。
こんな歌を道中で歌っている人がいたら、つい足を止めてみたくなるかも?