行雲流水 〜お気に召すまま〜

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読書感想:『ノートル=ダム・ド・パリ』

ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』(岩波書店)を読み終わりました。

 

作者について

フランスのブザンソン生れ。父はナポレオン麾下の将校。若くして文才を認められ、1822年に処女詩集を出版する。政治にも深く関わり、ルイ・ナポレオンの帝政樹立クーデターに反対して十九年間の亡命生活を送る。『静観詩集』('56)『レ・ミゼラブル』('62)などの傑作をこの時期に完成。'70年に帰国後も創作を続け、八十三歳で亡くなると盛大な国葬が営まれた。

引用元:ヴィクトル・ユゴーレ・ミゼラブル(一)』(新潮社)

 

主な登場人物

カジモド:優しく清らかな心を持つ青年。生まれながらに醜い容姿と不自由な身体であり、捨て子だったところをクロード・フロロに拾われた。以後、彼を養父として慕う。ノートル=ダムの鐘番としてずっと大聖堂の中で暮らしていたが、ある日エスメラルダに救われたことで彼女を愛し始める。

 

エスメラルダ:ジプシーの美しい踊り子。両親を探している。小さな雌ヤギのジャリとともに、人々の前で踊りや芸を披露しながら日銭を稼いでいた。真夜中に男に襲われそうになっていたところをフェビュスに助けられ、彼を愛するようになる。無実でありながら、「魔女」として死刑宣告を受ける。

 

クロード・フロロ:ノートル=ダムの司教補佐。聖職者の模範として神に仕えてきたが、やがて神への務めとエスメラルダへの恋との狭間で激しく苦悩するようになり、彼女を愛する男たちへの嫉妬や憎しみの感情に絡め取られていく。断頭台か自分かどちらかを選択するよう彼女に迫る。

 

フェビュス・ド・シャトーペール:王室親衛隊の隊長。非常に女癖が悪く、婚約者がいながらエスメラルダをも我が物にしようとする。ある夜にエスメラルダと逢い引きしていたところをクロード・フロロに目撃され、刺される。

 

ギュデール:本名は、パケット・ラ・シャントフルーリ。ロラン塔の小部屋に住んでおり、人々から「おこもりさん」と呼ばれる。赤ん坊だった娘がジプシー女にさらわれたという過去を持ち、ジプシーの娘であるエスメラルダを激しく憎む。

 

内容紹介(ネタバレあり)

クロード・フロロはあらゆる学問を修め、真面目に神に仕えることで司教補佐になるまでの地位を得た人物ですが、広場で踊る美しい娘エスメラルダに心を奪われ、激しく恋い焦がれていきます。

 

ある日カジモドを利用して彼女を連れ去ろうとするも、そのとき現れたフェビュス隊長によってエスメラルダは助けられ、カジモドは捕まってしまいました。
広場でさらし者となる刑を受け、喉がカラカラに渇いていたカジモドに対し、たった一人だけ味方になってくれた人物はエスメラルダでした。カジモドはその恩を決して忘れることなく、その日から彼女の姿を優しい眼差しで見守り始めます。

 

一方、エスメラルダはフェビュスに助けられたことで彼を愛する気持ちが募っていきます。フェビュスもまたエスメラルダを欲しますが、実は彼にはすでに婚約者がいました。ある夜、二人で逢い引きしようとした現場をクロードが目撃し、フェビュスは彼に刺され、エスメラルダは気を失ってしまいます。

 

目覚めた彼女を待っていたのは、フェビュスを刺した犯人として「魔女」裁判にかけられることでした。拷問によって偽りの自白をせざるを得なかったエスメラルダは死刑を宣告されます。
最期の場所へと向かう途中、彼女を救ったのはカジモドでした。カジモドはノートル=ダム大聖堂の小部屋で彼女をかくまいます。

 

ある夜、エスメラルダが普段暮らしている「奇跡御殿」の人々が彼女を取り戻そうと大聖堂に押しかけてきます。大聖堂を知り尽くしたカジモドは一人で防戦します。
やがて国王陛下の騎兵隊も現れ、その場は混乱を極めました。その中には、フェビュス隊長の姿もあります。
戦いが終わってカジモドがエスメラルダの元へ駆けつけたときには、彼女はすでにクロードに連れ去られた後でした。

 

クロードはエスメラルダを断頭台へと連れていきます。そこで苦悩に満ちた愛の告白をし、断頭台か自分かどちらかを選択するよう迫りますが、彼女はフェビュスを愛していることを告げ、クロードを激しく拒絶します。怒り狂ったクロードは彼女をギュデールのもとへ連れていき、その腕をしっかりと掴ませました。

 

彼が役人を呼びにいっている間、ギュデールは憎きジプシーの娘であるエスメラルダを罵倒し続けるも、ふとしたことから自分たちが実の母娘であることを知ります。
ギュデールは急に態度を改め、彼女を小部屋の中に避難させましたが、役人はすぐそばまで来ていました。ギュデールの必死の抵抗もむなしく、フェビュスの声が聞こえたためにエスメラルダはつい声を上げてしまい、捕まってしまいます。

 

断頭台へと連行されるエスメラルダを建物の上からじっと見つめるクロード。やがて彼女が断頭台に吊るされる姿が見えたとき、彼は恐ろしい笑い声を上げました。その姿に怒り狂ったカジモドは、クロードを背中から突き落とします。

 

この事件があった日から、カジモドはノートル=ダム大聖堂から姿を消しました。
後にわかったことは、モンフォーコンの墓穴の中で、女のものとわかる骸骨を抱きしめるようにして白骨化している奇妙な男の骸骨があったことです。女の骸骨から引き離そうとすると、奇妙な骸骨は粉々に砕け散ってしまいました。

 

感想

ノートルダムの鐘』として知られるディズニー映画、およびミュージカル作品の原作です。美しい娘をめぐる3人の男たちの物語です。

 

今回4年ぶりに再読しました。一口に言って、とても素晴らしい物語です。
ユゴーの作品はやはりなんといっても『レ・ミゼラブル』が最も有名ですが、負けず劣らずの傑作です。

 

3人の男たちはそれぞれ違った個性があり、エスメラルダへの愛もまた様々です。
カジモドはただ純粋にエスメラルダを愛しているし、クロード・フロロは苦悩の末に彼女を断頭台に送ろうとするし、フェビュスもまた婚約者がいる身でありながら彼女を愛そうとします。

 

そこに絡み合ってくるのが、嫉妬や憎しみ。
人を愛したことのある人間ならきっと誰もが持つこうした感情が、余すところなく描かれています。

 

私はクロード・フロロに同情してしまいました。

 

彼は普通の人間ではないと小説の中でも書かれていますが、実際に彼の感情はかなり複雑です。
彼は聖職者という立場にありながら、エスメラルダのことを愛してしまいます。狂おしいまでに、身をも焦がすほど愛しいのです。しかし、同時にその愛は彼女を断頭台に送りたくなるほど激しいものでもあるのです。

 

やり方は間違ったかもしれませんが、それだけ激しく人を愛することができるなんて、素直にすごいなと思いました。
もしも聖職者という立場でなかったなら彼はここまで苦しむこともなかっただろうし、きっとこの恋はまた違った形になっていたのかもしれません。
まぁそれを言ってしまうとこの物語は全く別物になってしまいますが・・・。

 

フェビュス以外の主要人物はみんな悲劇的な最期を迎えます。
誰も救われないのが本当に悲しい・・・。フェビュスは女性からしたらめちゃくちゃ嫌な奴だし(苦笑)

 

本作のもう一人の主人公は、「建築」です。
上下二巻のうちの上巻で、一編まるごと使って建築の歴史やユゴーの建築美に対する愛、そしてパリという街の様子について実に詳しく隅々まで語られています。

 

一見するとまったく物語の筋と関係ないようにも思えますが、これが実に重要な役割を果たしているということが、物語を読み進めるうちに分かってきます。
レ・ミゼラブル』にもこういった話はいくつも出てきますが、それが物語ときちんとリンクしているところがユゴーのすごいところだなと思います。

 

ちなみに、私はアニメ版やミュージカル版は観たことがありません。
しかし使われている音楽はよく聴いていて、今も原作の世界観を思い浮かべながらBGMに流しています。

 

陽ざしの中へ


ノートルダムの鐘 陽ざしの中へ - YouTube

 

クロードがカジモドの容姿を歌うところから始まって、曲の終わりに向かってカジモドの内に秘めた想いがだんだん解放されていくところが感動的です。

 

これ、ナマで聴いたら絶対に泣く自信があります(笑)
いいなぁ・・・・・・ホンマに一回でいいから、ナマで観てみたいです。ミュージカル。
なんで今までこんな素晴らしいものに興味を持ってこなかったんだろう・・・もっと早くにミュージカルを知っておけば良かったと後悔してます。

 

まぁ、今後一生観れないというわけではきっとないと思うので・・・機会があれば絶対観に行きたいです。