読書感想:『生協のルイーダさん あるバイトの物語』
百舌涼一の『生協のルイーダさん あるバイトの物語』(集英社)を読み終わりました。
作者について
1980年山口県生まれ。大学卒業後、広告制作会社に就職。コピーライターを生業とする。『ウンメイト』(『アメリカンレモネード』を改題)で第2回本のサナギ賞大賞を受賞し、小説家デビュー。
主な登場人物
社本 勇(しゃもと いさみ):ルイーダに付けられたあだ名は「勇者くん」。金田大学1年生。超がつく優柔不断。おまけに「もらえるものはもらっておく」という現金な性格の持ち主。その性格ゆえに友人からも敬遠され、彼女もできず、実家にも居場所がない。仕送り額も少ない貧乏学生。「自分を変えたい」との思いから、ルイーダにバイトを紹介してもらう。
井田 瑠衣(いだ るい):「ルイーダ」。金田大学OG。某RPGに感化されたゲーム脳であり、なんでもすぐにゲームと結びつけようとする。本業は生協の売店の販売員だが、副業としてバイトの斡旋を行っている。普通(?)なものからちょっとアヤしいものまで、実に様々なバイトを紹介する。
多田 寛(ただ ひろし):あだ名は「タダカン」。ただし、ルイーダからは「カンダタ」と呼ばれる。金田大学8年生。勇がバイトに行く先々でなぜか必ず現れる。見た目に反してとても優しい性格であり、勇のことも気にかけている。昔は地元で有名な伝説的不良だったらしく、彼に憧れて不良になった者もいるらしい。
眞戸 美千代(まど みちよ):小柄で上品な女性。一見幸せそうな結婚生活を送っているように見えるが、夫との間に子どもを望むも夫婦の営みは一度としてない。自分の想像の中で作り上げた子ども像に合う話し相手の男の子を探しており、勇に白羽の矢を立てる。物語のキーとなる人物。旧姓は、金田。
金田 俊文(かなだ としふみ):金田大学九代目理事長。体調を崩し、検査入院を繰り返している。
内容紹介(ネタバレあり)
社本勇は、子どもの頃から「選ぶ」ことが大の苦手。何事もなかなか決められません。おまけに財布の中は素寒貧な貧乏学生。彼自身は、そんな自分をなんとかして変えたいと思っていました。
ある日、勇は学食の掲示板に「ルイーダ」なる人物から仕事を紹介してやるという旨のメモを見つけます。早速ルイーダを探し出し、仕事を紹介してもらおうとする勇。しかし、彼女から渡されたのは、バイト名が書かれた2枚の紙でした。そしてルイーダは、勇が最も苦手な二者択一を迫ります。悩む勇を前に、ルイーダは勝手にバイトを決めてしまいました。
それが、最初のバイト「治験バイト」です。ここで勇はタダカンと出会います。しかし、勇のミスからバイトを最後までやりきることができないままクビになってしまいました。
次は「はくバイト」。ここでもタダカンと遭遇します。このバイトではとても恥ずかしい思いをしたものの、悪くない金額を受け取ることができました。
次に選んだのは「パン」のバイト。仕事内容は、工場でライン作業をこなすだけの簡単なものです。しかし、その勤務実態は非常にブラックで、勇は勤務中に倒れてしまい、途中リタイアしました。
次は「ゴミ」のバイト。高級住宅地でのゴミ収集の仕事です。このバイトは順調に続いていたものの、勇がある失態を犯してしまったことでタダカンが激怒。その後二週間無断欠勤したことによりクビになってしまいました。
次は「貸すバイト」。借金を回収するのが仕事でしたが、取り立てに訪れた家はゴミ収集のバイトで勇が失態を犯した、眞戸という表札を掲げた家でした。幸い目当ての人物は留守でしたが、同行していたバイトたちといさかいを起こし、追われていたところをゴミ収集のバイトを続けていたタダカンに救われます。結局この仕事は何もすることができないままクビになってしまいました。
次は「イヌ」のバイト。女性を相手に従順なペットになる、という仕事でした。訪れたのは、またしてもあの家――眞戸家でした。依頼主は家主の妻・美千代。以後、勇は美千代の話し相手としてこの家に通います。
美千代は優柔不断な勇をとても可愛がり、そういう子が好きだと言ってくれました。しかし、勇は自分を肯定してくれることをありがたく思うと同時に、これでいいのかという疑問を抱き始めました。もともと彼がバイトを始めたのは、そういう自分を変えたいという気持ちがあったからです。
バイトで人は変われるのか――その答えを知るため、勇はルイーダの元を訪れます。
勇に意味深な回答しか与えないルイーダは、「死体バイト」と「遺体バイト」のどちらをとるかを勇に告げます。なかなか決められない勇を、ルイーダは居酒屋に連れて行きます。そこにはタダカンの姿もありました。
ここで初めて、勇は金田大学が抱えている問題を知らされます。ルイーダとタダカンは大学の自由を取り戻すために闘っているのでした。そしてその問題の裏にいるラスボスは、眞戸孝蔵(まど こうぞう)という男――美千代の夫です。
最後に選んだのは「死体バイト」でした。デモに参加して一日「死体」のふりをしていればよいという仕事です。しかし勇は自分がそれを選択したことを全く覚えていません。デモが始まり、次々と明かされていく眞戸孝蔵の秘密と悪事。それが明るみになるにつれて、勇は自分とタダカンが関わったバイトはすべてこの日のために仕込まれたものだったことを知ります。
突然、金田俊文が現れたことによりその場の雰囲気は一転しました。金田翁は、金田グループの最高経営責任者を退陣するともに、眞戸孝蔵が関わっているすべての任を解くことを表明します。こうして、金田大学は「自由」を取り戻しました。
ルイーダとタダカンに利用されていたことを知り、勇は裏切られたような気持ちになっていました。年は離れていても、二人のことをいつしか兄や姉のように慕っていたのです。
しかし、ルイーダもタダカンも、悪びれずに言います。自分たちは最初から勇のことを素敵な仲間だと思っていたよ、と。その言葉に、勇は涙を隠すことができませんでした。
後日、ルイーダの元を訪れた勇は、「G」か「K」か選択するよう迫られます。前者は害虫駆除の仕事、後者は寝床付きの仕事です。諸事情でアパートを追い出されていた勇は、迷わず後者を選択しました。
詳細を勇に告げるにあたり、ルイーダは自分と勇の両親との関係について明かします。初めて語られる真実に、勇は戸惑うと同時に、自分の優柔不断を直すためにバイトをさせるよう両親がルイーダに依頼したものであったことを知りました。今までのことは、すべては仕込みだったのです。
彼女のことを恐ろしい人だと思いつつも、憧憬の気持ちも同じくらい彼女に対して抱くようになっていました。ルイーダは宿なしの勇に、部室の合鍵かルイーダの部屋の合鍵か選ぶよう迫ります。それでもやっぱり、勇は二者択一が苦手なのでした。勇のクエストクリアはまだまだ先になりそうです。
感想
本作は、RPGソフト・ドラゴンクエストに登場する「ルイーダの酒場」が元ネタになっています。
ドラクエ好きな人なら、きっとタイトルを見ただけでなんとなく察したのではないかと思います(笑)
私もその一人で、このタイトルを古本屋さんで見かけたときは、中身とかあまり確認しないまま即購入しました。
本作の主人公、社本勇はとにかく優柔不断です。彼にとって、二者択一とは「無理ゲー」なのです。
それはもう、冒頭から優柔不断です。学食のメニューでさえも、もう目の前に厨房のおばさんがいるのに決められない。そしてその優柔不断ぶりは、ルイーダからも「筋金入り」と呆れられてしまうほどです。
世の中の優柔不断な人に申し訳ないと思いつつも、私も読んでてだんだんイライラしてきてしまいました・・・。
もちろん私だって選択に迷って「うむむむむ」となることはあるけれど、さすがにここまでくるとちょっと・・・というのが正直なところです。
世の中は、「選ぶ」ことの連続です。
日常の中の些細な選択から、時には人生を左右する大きな選択まで、人間は常に「何か」を選びながら生きています。
勇のようにどっちがいいのかなかなか決めきれず、最終的には自分が得するか否か、傷つかないかどうかといった基準で決めることも、きっと誰だってあるでしょう。
しかし、選んだ以上は責任を持つしかないし、その選択が正しいものだったと思えるかどうかは、結局自分次第なんですよね。
本作はコメディ色を強めに出しつつも、何かを「選択」することについて深く考えさせられる作品でもあるなと思いました。
先にも書きましたが、本作はドラクエが元ネタになっているので、物語の至る所でドラクエ用語が出てきます。
ドラクエを知っている方ならきっと思わず「わかる!」と声にだしてしまうような小ネタがたくさん仕込んであります。
もちろん、ドラクエを知らない方でも、十分楽しめる読み物です。興味のある方はぜひ一読を。