行雲流水 〜お気に召すまま〜

好きなことを好きなように好きなときに書くブログです。

まぁゆっくりいきましょうや

昨日購入した、岩合日出子『アフリカポレポレ』(新潮社)を読み終わりました。(また懲りずに古本屋さんに行ってました・・・笑)

 

かの有名な動物写真家・岩合光昭さんの奥様が執筆されており、撮影のためにタンザニアに向かうことになったご主人とともに現地に滞在したときのことが書かれています。

 

満足に水も電気もない中での大自然での暮らし、ダニや襲い来る巨大アリとの闘い、サファリで目にする動物たちの厳しい「生」と「死」――。

 

読んでいて私が一番ゾッとしたのは、アリの大群が家中に押し寄せてきた話。
家中のあらゆるところにアリがたかって真っ黒になっている様は、想像しただけでも背筋がゾワーっとしました。

 

私は虫がとにかくニガテです。蚊の一匹でもぎゃーぎゃー騒ぐほど。
アリとの闘いはやたらリアルに描かれているし、なんだか自分の家にも押し寄せてくるんじゃないかという気がだんだんしてきて、落ち着かない気分になりました。

 

――この本の主役は、なんといっても4歳の薫ちゃんだと思います。

 

この娘さんが発する言葉が、ただただ深い。
本当に4歳?と思ってしまうほど確かな感性で綴られる気付きや想いには、ハッとさせられるものがあります。

 

少し長くなりますが、下記に引用させていただきます。

 

「そう、そんなら持って帰りましょう。わたしの子馬にしてかわいがる」
 薫は死んで見捨てられたものなら、自分の子馬にしてしまってかまわないだろうと考える。しかし、これもできない。死んだ子馬はもう子馬じゃあない。「もの」なんだ。どんどん腐って、そのうちに草原にころがっているような骨になってしまう。
「それでも、薫はかわいがるの?」
 私が聞くと、
「どうして、『もの』にはいのちがないの」
 などと、私を質問攻めにする。子馬を振り返り、振り返り、とにかく車に戻ってくる。ふたたび走りだす車の中で、薫はひとりでつぶやいている。
「シマウマの子供は死んでいます。死ぬと・・・・・・、骨になります。そして土になります。それが・・・・・・、自然のきまりです・・・・・・」

引用元:岩合日出子『アフリカポレポレ』(新潮社)、140ページ

 

「ママ、ヌーの子供は死んじゃったよ。私もおなかがすいた」
 ランチボックスを開いて、トーストを出している。血の臭いに集まったハエが、ワッとそのトーストに群らがる。薫はまったく気にしない。空から、サメイロイヌワシが舞い下りてくる。隙をねらっていたジャッカルが肉片をかすめ取っていく。オスライオンがタテガミを振りながら走ってきて、ハイエナを追い払う。が、もう終わった。草むらには、わずかな血のしみが残っているだけだ。オスライオンはあたりを嗅ぎまわっていて、なかなか立ち去ろうとはしない。ヌーの群れが、遠くからこの出来事を見ている。私は薫にたずねてみる。
「食べられたヌーの子供が、かわいそうだとは思わないの?」
「かわいそうだよ。ほんとうに、かわいそうだと思う。だから見ているの」
 薫は答える。

引用元:岩合日出子『アフリカポレポレ』(新潮社)、165ページ

 

一つ目のは死んだシマウマに対する著者と薫ちゃんとのやりとり、二つ目のはヌーの子供を仕留めたハイエナの食事、そこに群がる動物たちを見つめる薫ちゃんと著者とのやりとりです。

 

「かわいそうだよ。ほんとうに、かわいそうだと思う。だから見ているの」の言葉に込められた薫ちゃんの想いとはどんなだったのか。
これは私の想像でしかないですが、薫ちゃんはこの光景を見たときに「いのちをいただく」とはどういうことなのかを考えたのかもしれません。

 

生きるためには、食べなければならない。食べるためには、狩りをしなければならない。狩りによって、死ぬ(=食べられる)動物がいる。その死んだ動物を食べることによって、生きる(=生かされている)動物がいる。

 

サファリはまさに、こうした食物連鎖の縮図です。
食べられるいのちがあれば、それをいただいて生きているいのちがある。

 

かわいそうだと思うからこそ、ヌーの子供が食べられていく様をきちんとこの目で見届けたい――そんな想いがあったのかもしれません。

 

まだ4歳、されど4歳。ものすごい観察力と感性だなと思います。

 

大自然の中での暮らしに加えて、タンザニアという国がそもそもの物資が少ないことの不便さはこの本からも伝わってきますが、だからといって不平不満ばかり言うのではなく、「ポレポレ」とやっていきながら逞しく生活する著者とご家族の様子から、多くのことを学ばせていただきました。

 

ちなみに、「ポレポレ(pole pole)」とはスワヒリ語で、「のんびり、ゆっくり」といった意味があるそうです。
主にアフリカ東岸部で使われている言葉のようで、この本の舞台となったタンザニアはもちろんのこと、ケニアウガンダルワンダ等々の国で広く使われているそうです。

 

ポレポレ。響きがとってもかわいいですよね。

 

仕事、日常生活、いろんなところで「あれやらなアカン、これやらなアカン」と時間に追われがちですが、そんなときこそ「ポレポレ」を意識して過ごしたいものです。