読書感想:『フラワード 弔い専花、お届けします。』
百舌涼一の『フラワード 弔い専花、お届けします。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読み終わりました。
作者について
1980年生まれ。大学卒業後、広告制作会社に就職。コピーライターを生業とする。『ウンメイト』(旧題『アメリカンレモネード』)が第2回本のサナギ賞大賞を受賞し、小説家デビュー。
引用元:百舌涼一『フラワード 弔い専花、お届けします。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
内容紹介
主人公の継実(つぐみ)は過去のトラウマから言葉を失くし、人と関わることを避けてきました。
祖母と母の死により生活に困り果てた継実は仕事を探すうち、喋らなくても会話ができる「自称魔女」なる人物と出会い、彼女が店主を務める花屋でアルバイトとして働き始めます。
そこは、「花言霊」を込めた特別な花を届けるという、葬式専門のちょっと不思議な花屋でした。
仕事を通して「死」と向き合う中、自身の過去に隠された真実を知ることになる継実。
傷ついた彼の心に、平安は訪れるのでしょうか――。
感想
最初に本のタイトルを目にしたときは「絶対泣けるヤツだ」と思ったのですが、読み進めるうちにその考えは良い意味で裏切られました。
「死」を扱った物語でありながら、その重さや暗さをまったく感じさせない内容なんです。
そして継実以外の登場人物たちの個性があまりにも強烈で、それぞれのエピソードでのぶっとんだ活躍ぶり(?)が面白くて、気持ちが暗くなるどころかとても楽しく読めました(笑)
じゃあ継実はどうなのかというと、登場人物の中では彼が人間として一番マトモ?な感性を持った人だと思います。
言葉を失うまでに辛い過去を抱えながらも、継実が生活のために選んだアルバイト先【フラワーTAMA】。
ちょっと変わったその店で店主を務める、これまたちょっと変わった人物である琴花たま子とのやりとりがとても軽快です。
約360ページあるので割と厚めだと思いますが、それを感じさせないテンポでサクサク読むことができるので、時間のない人にもオススメです(^^)
さて、この物語で忘れてはいけないテーマが「花言霊」です。
こう書くとなんだか聞き慣れない言葉ですよね・・・私も「花言葉」は知ってるけど、「花言霊」というのは初めて耳にしました(本作の造語?)
しかし、その答えは、ちゃんと本文中に書いてあります。
それによると、「言葉にはこの世界に影響を与えるほどのチカラが込められているんだ」そうで、「それこそ魂のこもった言葉なんかは特に」大きなチカラを発揮するようです。
「花本来が持つ言葉に言霊を重ねて届けることで、その場にいるひとの運命をちょこっといじってやるくらいのことはできる」というのが、琴花たま子の言葉として語られています。
とは言え、こう説明されたところで私もまだあまりピンとは来ていないんですけどね(^^;
私は言霊信者ではありませんが、誰かの口から語られる言葉がまた別の誰かの心を動かし、やがて歴史を動かしたという事実もありますし、「言葉」というものには人を動かす不思議なチカラが宿っているというのは、必ずしもありえないことではないのかもしれないなと思いました。
「花言葉」という考え方自体は、すごくステキだなぁと思います。
贈る相手によって花を考えたり、色との組み合わせなども変えてみたり・・・こだわりだすとキリがないと感じるくらい奥深い世界ですよね、きっと。
私も一時期ものすごく花言葉にハマった時期があって、道ばたで見かけた花を図鑑で調べて、ついでに花言葉も調べたりしていました。
そこから派生して誕生花とかもハマってました。
数が多すぎてとても覚えきれず、敢えなく断念しましたが(苦笑)
「花言葉」を言霊として込めた特別な花を届ける・・・本作で登場する花たちにも、実に様々な意味が込められています。
亡くなった人を弔うにあたり、どんな花がふさわしいか。
故人の情報をもとに花を選ぶたま子のそばで、継実もいつしか自分で花を選ぶようになっていきます。
各エピソードの中で様々な人の「死」に触れ、自分自身もまた身近な人の死ときちんと向き合うことで人間として少しずつ成長していく継実は、物語の終盤で驚くべき変貌を遂げます。
「花言霊」を届ける、ちょっと不思議な花屋の物語――気になった方は、ぜひ手にとってみてくださいね(^^)