行雲流水 〜お気に召すまま〜

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読書感想:『黒い兄弟』

リザ・テツナーの『黒い兄弟(上)(下)』(あすなろ書房)を読み終わりました。

 

作者について

1894年、ドイツ東部に生まれる。
1933年、ナチスの政権掌握とともにスイスに亡命。
1963年に亡くなるまで、『黒い兄弟』の舞台になっているルガーノ近郊で創作活動に従事した。

引用元:リザ・テツナー黒い兄弟』(あすなろ書房)より

 

概要

スイスの小さな村からミラノに売られた少年ジョルジョと、秘密結社「黒い兄弟」の物語。
実際にあった「人身売買」、過酷な労働条件の下で働かされる年端もいかない子どもたちという重いテーマを扱った作品ですが、辛い日々の中でも常に助け合い、力強く生きていく少年たちの友情と成長が描かれています。

 

内容紹介

主人公ジョルジョは、13歳の少年。スイス・ティチーノ地方にあるソノーニョ村で、おばあさん・父さん・母さん・二人の小さな弟とともに暮らしていました。

 

そんなある日、ほおに傷をもった男がジョルジョたちの前に現われます。男は、ジョルジョのような子どもを探していると告げました。
ジョルジョをミラノに半年間働きに行かせる代わりに、代金として30フランを親に支払うというのです。

 

しかし、父さんは千フラン積まれても自分の息子を売ったりはしないと言い放ち、その場を後にしました。
男の、「きっと来年は、子どもを喜んでおれにくれるぜ」という不気味な言葉をはらいのけるようにしながら。

 

やがて、様々な不幸が村を襲いました。冷害、日照り、山火事、母さんのけが・・・。

 

母さんのけがは、医者に見せなければなりません。しかし、そのためにはどうしてもお金が必要になる。30フランあれば、医者に診せることができる・・・。
おばあさんからの説得もあり、父さんはしぶしぶジョルジョをほお傷の男に売り渡す決意をします。

 

ジョルジョは、最初にほお傷の男に会ったときから、こうなることを予感していました。大好きな母さんのためになるのならとむしろ誇らしい気持ちで、故郷を後にしたのでした。

 

男との約束の場所・ロカルノの町に向かう途中、アルフレドという少年に出会います。
親友となるこの少年も、ジョルジョと同じようにミラノに向かうことになっていたのでした。しかしアルフレドはある秘密を抱えており、決して多くを語ろうとはしません。

 

ロカルノにたどり着いたジョルジョとアルフレド。そこには、同じようにミラノに売られていく少年たちが他にもいて、彼らはほお傷の男とその仲間とともに湖を船で渡ることになりました。
しかし、嵐によって船は転覆し、一行は水の中に投げ出されてしまいます。

 

運良く助かったのはジョルジョ、アルフレド、そしてほお傷の男のみでした。

 

その後、男に連れられながらミラノに向かい、そこでジョルジョとアルフレドはそれぞれ別々の親方に引き取られることになります。

 

ジョルジョが引き取られたのは、ロッシ親方の元でした。
ロッシ親方は根っからの悪い人ではないのですが、おかみさんと息子のアンゼルモは底意地が悪く、ジョルジョへの嫌がらせは毎日のように行われました。

 

しかし、ロッシ家にはアンジェレッタという心のやさしい娘がいました。
ジョルジョはアンジェレッタに助けられ、辛い日々の中でも心のやすらぎを得ていくのでした。

 

そんなある日、ジョルジョはロッシ親方の息子アンゼルモによって泥棒の濡れ衣を着せられてしまいます。
警察に逮捕されたジョルジョはしかし、ロッシ親方によって助け出されました。真実を目撃したアンジェレッタによって真犯人が明らかにされたのです。

 

ロッシ親方は「これからはつらい思いはさせない。このおれが約束する」と請け合ってくれ、この出来事以降、事実その通りにジョルジョはつらい思いをすることがなくなったのでした。

 

その後、ジョルジョはアルフレドとの再会を果たします。
ルフレドは、煙突掃除の仲間たちだけで「黒い兄弟」という秘密同盟を結成し、そのリーダーになっていました。
しかし、アルフレドはジョルジョが最初に会った頃よりも痩せ細り、変わり果てた姿になっていました。実は、アルフレドを引き取ったシトロン親方はその界隈では有名な人でなしで、アルフレドをこき使い、食事や水も満足に与えていなかったのでした。

 

メンバーの中には船の転覆で死んだと思っていた少年ダンテとアントニオの姿もあり、ジョルジョもすぐさま仲間として加入しました。

 

この「黒い兄弟」に対し、ミラノに住む子どもたちで結成された「狼団」は、日々煙突掃除の少年たちの後をつけ、石を投げたり、悪口を言ったりという嫌がらせを繰り返していました。
ロッシ親方いわく、煙突掃除の子と町の子とのいがみ合いは昔からあったとのことでした。
狼団から嫌がらせを受けるジョルジョへの仕返しに、黒い兄弟と狼団は公園で対決し、黒い兄弟が見事に勝利をおさめたのでした。

 

ある日、アルフレドの元を訪れたジョルジョは、アルフレドがひどい病気で起き上がることもままならない状態であることを知ります。
自分の最期を悟ったアルフレドはジョルジョを枕元に呼び、自分の秘密を打ち明けました。

 

本当は金持ちの家の子であること、ミラノに来る前に農夫の元に預けたたった一人の妹ビアンカがいること、父さんの弟夫婦が自分たち兄妹を殺そうとしていること、自分が死んだらビアンカに届け物と彼女を安全な場所にかくまってほしいこと――。

 

ルフレドはビアンカのことをジョルジョに約束させ、彼らはそこで別れました。

 

ある日の夕方、ジョルジョはアルフレドが亡くなったことを知らされます。
黒い兄弟でお金を出し合い、アルフレドの葬式を執り行いました。そこにはなんと、敵対していたはずの狼団のメンバーたちも現われ、ともにアルフレドを送り出してくれました。これにより、黒い兄弟と狼団は和解し、その後は互いに協力し合うようになります。

 

・・・寒さが厳しくなってきた冬のある日、ジョルジョはロッシ親方とともに煙突掃除の仕事に向かいました。
出かけた先で、ジョルジョは煙突の中の何かに引っかかってしまい、窒息しかけます。

 

ジョルジョの命の危機を救ってくれたのが、カセラ先生でした。カセラ先生はとても親切なお医者さんで、立派な人格者でもありました。
また、ジョルジョと同じティチーノ地方の出身でもあったのです。

 

カセラ先生は黒い兄弟のメンバーにも紹介され、ミラノに来た理由や親方の元での待遇について一人ひとり確認し、何か力になれることがあればスイスで待っているからと告げました。

 

カセラ先生の手厚い保護によってすっかり元気を取り戻したジョルジョは、カセラ先生に立派な服や靴、帽子を買ってもらいました。
これがアンゼルモには面白くなく、アンゼルモはジョルジョの衣類が入った袋を盗み、自分がお母さんに町で買ってもらったものだと言い放ちます。
どんなに説明しても信じてもらえず、親方からも「嘘をつくな」と言われてしまったジョルジョは、ついにミラノを脱走する決心をします。

 

ジョルジョの他にダンテとアントニオが脱走を決意し、狼団の力も借りて、3人はミラノから脱出します。

 

ほお傷の男、警官、アンゼルモからの追跡の中で、税官吏や農夫など、親切な人たちの力も借りることができました。

 

無事にスイスにたどり着いた3人はカセラ先生の家を訪ね、しばらくここに身を寄せます。カセラ先生の息子ロレンツォともすぐに仲良くなりました。

 

事情を知ったカセラ先生は、ほお傷の男が酒場にいることを知り、警察に働きかけます。そしてある日、ついにほお傷の男は逮捕されたのでした。

 

ジョルジョにはまだ大切な用事が残っていました。アルフレドの妹ビアンカを迎えに行くことです。

 

ビアンカは預けられた農夫の元で、農夫の子どもたちや村人たちとうまくやっているようでした。
突然現われたジョルジョに初めは警戒するビアンカですが、ジョルジョがアルフレドからの頼みでここに来たことを告げると警戒を解き、アルフレドのことを根掘り葉掘り聞きます。

 

ルフレドからの届け物の中にはビアンカ宛の手紙が入っていました。その手紙で、ビアンカはアルフレドが亡くなったことを知り、悲しみのあまり家の中に駆け込んでしまいました。

 

農夫はビアンカを泣かせたジョルジョを追い払おうとします。
カセラ先生からの手紙で知らせを受けていた村の司祭も説得に加わってくれましたが、農夫はビアンカをなかなか手放そうとはしませんでした。

 

仕方なしに郵便馬車の出発時刻を告げ、その場を去ります。

 

翌日、郵便馬車の出発時刻になってもビアンカは来ませんでした。
しかし、村を出たあたりでもう一度ビアンカが住んでいる農家を目にしたとき、突然目の前にビアンカが現われ、一緒に行くと言ってくれました。

 

こうしてビアンカもカセラ先生の元に身を寄せることになり、3人の少年たちの今後についても身の振り方が決まりました。

 

・・・数年後、一組の若い男女が、ソノーニョ村を訪れました。ジョルジョとビアンカです。
村を離れてから実に9年ぶりに、ジョルジョは村に帰ってきました。故郷ソノーニョ村で、教師として赴任することになったのです。
そしてついに、家族との感動的な再会も果たしました。父さんも母さんも、そしておばあさんも、みんなジョルジョのことを思わない日は一日としてありませんでした。

 

ジョルジョをずっと信じて待っていたおばあさんの言葉とともに、物語は幕を閉じます。

 

「あたしにはわかっていたよ。この子はきっともどってくるってね。この子は骨のある子だったからね」

 

感想

この小説は、1995年に放送された世界名作劇場ロミオの青い空』の原作です。私はこのアニメが大好きで、大人になってからも何回も観ました。

 

原作とアニメではかなり内容が違っています。

 

まず主人公の名前からして違います。原作ではジョルジョなのに対しアニメではロミオだし。
ジョルジョたちが親方の元から脱走する話はアニメでは描かれていないし、ビアンカは原作では預けられた農夫の元でそれなりに幸せに暮らしていますがアニメでは底意地の悪い叔父夫婦に捕まってしまい、監禁と虐待の日々を送っています。アンジェレッタも、ロッシ親方の本当の娘ではないという設定になっています。

 

ロッシ家のおかみさんやアンゼルモの性格の悪さはアニメ・原作ともに変わらなくて、原作の方がより暴力的な描写も多く、読んでいても思わず顔がゆがんでしまうような痛みを感じました。

 

ロッシ親方がそこまで悪い人ではなかったことは一つの救いでした。そして、天使のようなアンジェレッタや、黒い兄弟の仲間たちとの出会いがジョルジョの心の支えとなり、辛くても前を向いて生きる糧になったのかなと思います。

 

登場人物は一人ひとりが個性的です。
黒い兄弟のリーダー・アルフレドはカリスマ性のある人物で、その聡明さと穏やかさで人を惹きつけますし、ちびのダンテは漁師の子というだけあって船やボートを利用する場面では迅速な判断をしています。
狼団のリーダー・”あばた”(アニメではジョバンニ)は、本当は良い奴で卑怯なことが大嫌いという、まっすぐな人間です。「猫」というあだ名のあるファウスティーノも、ジョルジョたちと和解してからは折りあるごとに助けてくれますし。

 

狼団のメンバーが根っから悪い子たちばかりではない中で、アンゼルモがいかに卑劣で卑怯な奴かが際立ちます。
この作品の中で一番の悪役はほお傷の男ではなくて、実はこのアンゼルモなのかもしれません。ほんと最後までめちゃくちゃ腹の立つ奴です・・・。

 

最後に、アニメの1話目をのっけておきます。なんと今you tubeで全話観られるそうなので、興味のある方はぜひ。
OPの「空へ・・・」は本当に素敵な歌で、特にサビのメロディの美しさが笠原弘子さんの澄み渡る声と見事にマッチしていて、なんだか泣けてきます。


 ロミオの青い空 第1話「アルプス!小さな村の大事件」【公式アニメch アニメログ】 - YouTube